Starred Up / 名もなき塀の中の王 ~愛着の物語 + 美しいジャック・オコンネル


原題『Starred Up』とは、少年刑務所から成人刑務所への早期転送を意味するイギリスで使われる言葉だそう。確かに、最初入ってくる時に係の人が「要注意人物」だと説明していた。そして、その題の示すように、この物語は刑務所の中を舞台にしている。19歳で成人刑務所に送られるほど非常に暴力的だとされるエリック(Jack O'Connell)が主人公。

この映画はジャック・オコンネルじゃなければだめだったんじゃないかってくらい、はまり役。『Skins』のクックを知っていれば、もしかして、彼の悪さが過ぎてこういう事態になることがあるかもしれないって思うくらい。クックを魂を燃やして生き急ぐタイプだと思っているんだけど(Skins Season 7: Rise ~大人になったクック)、エリックもそんなタイプ。生きるか死ぬか。理性よりも本能で生きている感じ。さらに、ジャック・オコンネル自身に『Skins』の頃のあどけなさはほとんど残ってないにも関わらず、他の登場人物たちがみんな年上でムキムキに鍛えられた囚人たちだから、19歳の新人エリックはすごく子どもに見える。刈り上げられた後頭部とか、タトゥの入った体とか、くるっとカールした睫毛とか、映像もフェチっぽくジャック・オコンネルの姿を捉える。自然光が少ない刑務所の中で、差し込んだ光できらきらと輝くジャックの瞳を撮影する意味は?って勘ぐりたくなるほど。ほこりが舞うトレーニング室で歯を食いしばって鍛える姿とか、シャワー室とか、タオルにくるまって眠る姿とか、チップスをばりばり食べているとことか、刑務所での日々の生活の中でまだ大人じゃないエリックの姿が際立つ(グループセラピーで仲良くなったメンバーから、掘られないように気をつけろと言われているくらい)。あと、受刑者のスウェットもめちゃ似合ってた。

これめちゃクック。



そして、この映画は愛着の物語を描いていると思った。エリックはこの刑務所で父親(Ben Mendelsohn)と再会する。エリックのこれまでは本人から語られることでしか知ることができないけど、それによると、5歳のときにはもう父親は刑務所に入れられていて、父親は刑務所内で殺人を行ったためもう外へ出ることができない。母親はすでにいない。そして、エリックは施設に入れられ、そこで性犯罪を受けた。たぶん、その犯罪者をぼこぼこにしてつかまったんだと思う。母親がどうしていなくなったかわからないけど、父親が悪口を言っていたので、あまり良い関係ではなかったのか。そういうことから想像すると、エリックには愛着の問題があるだろうし、虐待による傷もある。だから暴力的になるのはわからないでもない。

刑務所でグループセラピーを無償で行っているオリヴァー(Rupert Friend)は、そんな彼を更生させたいと熱心に取り組む。しかし、この刑務所の偉い人の考えはそれとは逆で暴力には暴力を。社会の悪も刑務所の中にずっといれば害を及ぼさないだろうというようなもの。この役を演じていた人が本当にむかつく顔で、よけい苛立った。

また、受刑者には受刑者たちのルールがあって、刑務所内を無法地帯にするんじゃなくて、力を持ったものが統率する社会にしたいと考えている。新人のしかも若いエリックはそんなこと知ったことじゃないから暴れて目立つ。父親はそれを何とか抑えようと苦心する。

父親の部屋には幼いエリックが描いた家族の絵が貼ってあるが、彼もずっと息子と離れていて父親にはなれていなかった。でも、息子が揉め事に巻き込まれたり、親しいグループを作ったり、何かするたび気が気じゃない。お菓子を差し入れしたり、グループセラピーを受けることをすすめたり、刑務所内での生き方を教えたりして世話を焼きたがる。それは一方通行でうまくいかないことが多いけど、彼の中にはっきりとした希望のような目標のようなものが芽生えていく。エリックには自分のようにはなってほしくない。刑期を無事終えて刑務所の外に戻ってほしい。だから、生きて欲しい。

エリックは、いろいろなことを諦めたり失望するのに慣れていて、誰かを心から信頼することができなかった。しかし、グループセラピーを通して怒りのコントロール法や、自分以外にも苦しんだり悩んだりしている人がいることを少しずつ知って世界が広がっていく。そして、ようやく新たな始まりへと舵をきったのかなと思ったところで、苛酷にも他人の手によってそれを拒まれてしまう。もう本当にこのまま終わったらこの映画許さない(ヨーロッパ映画ではよくある)と思ったけど、最後にああよかったと思わせてくれる場面をつくってくれていた。ありがとう。父親がエリックを生かそうとして、何がどうあっても「愛している」ということを伝えた。エリックは子どものように丸まって泣いた。きっと父親の思いを受け入れたんだと思う。何をしても父親は自分ことを愛してくれるとわかれば、それを心の軸にして生きることに挑戦できる。最後に希望があってよかった。また、親子の別れの場面は、手錠をかけられていたのもあるけど、抱き合うのではなく、顔をこすり付けるようにお互いを感じていて、それがまるで犬とか動物の愛情交換行為のようで、この親子は本能的にぶつかって愛し合うことができたのかなと思った。とても美しい場面だった。



なにこれ。かわいすぎ。

Jack O'Connell, Rupert Friend

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