牯嶺街少年殺人事件 / A Brighter Summer Day ~変えたい男の子と変えられたくない女の子

by - 3/27/2017


1961年に台湾で実際に起きた事件を元にした作品。236分(4時間弱)は長かった。長すぎて、これはタイトルにあるように少年の殺人事件の話だよね?事件起こらないけど違うかな?って思えたくらい。ギャングの抗争とか、お父さんが拘束されるとか、少年の話に関係なくはないけど、長かった。主人公の少年と、その友人、転校生、片思いの少女、不良の少女という同級生たちと、姉兄との関係が特によかった。

主人公の小四(張震(チャン・チェン))は、5人兄弟の4番目。思ったような成績が出せずに希望の昼間部に合格できず、夜間部の中学生となる。小四は何を考えているのかわからない、ぼうっとした少年。積極的に参加するわけでも、消極的になって逃げるわけでもない、不思議な存在感。そんな彼が1番夢中になったのが、片思いの少女、小明(楊静恰(リサ・ヤン))。小明は、不良グループ・小公園のボスであるハニー(林鴻銘(リン・ホンミン))の彼女。だけどハニーが不在のため、いろんな男が彼女を狙っている。小明は、聡明で美しく、同年代の少女たちと群れないところからも一目置かれる存在だが、病気がちな母親と貧しい暮らしをしていて、色恋よりも生きることをまず考えなくてはいけない状況になることもある不安定なところがあった。


小四は、小明と不良の少女、小翠の2人から同じ理由で拒否られる。小翠の場合は不良で誰とでも遊んでいる女の子というイメージをもっていて、それを自分と付き合うことでまともにしようとして拒否られる。小明に対しては、ハニーを忘れられない一途な女の子というイメージをもっていて、だけど実はいろんな男をたぶらかしていい気になっているというのを責め立て、自分が変えてみせると言うが拒否られる。

「君のこと全部知ってるよ でも気にしない 僕だけが知ってて君を助けられる 君には僕だけだ」
「あなたなら私を変えられると? あなたも同じね 意外だわ ほかの人と同じ 親切にするのは私の愛情がほしいから そして安心したい 自分勝手ね 私を変えたい? 私はこの世界と同じよ変わるはずがない あなたは何なの?」
一つの映画が世界そのものであるということ 『クーリンチェ少年殺人事件』試論 Coyote’s foot print

小四は、事件の前にキリスト教の信者である姉(5人兄弟の3番目)から、説教を聞かされる。「自分のことばかり考えていないで、見返りを求めずに他人のために何かをする」。母が大事にしていた時計を質に出したお金で遊んだ小四の代わりに兄が賭けビリヤードでお金を工面し、それが親に見つかって厳しく叱られた後だった。つい最近、アドラー心理学の『嫌われる勇気』を読んだところだったので、このエピソードが強く心に残った。それまで地味な存在だった姉は、静かに家族を見ていた。「勧誘は結構」って姉をつっぱねていたのに、この言葉は小四に響いたみたい。


だけど、小四が小明にぶつけたのは、自己満足の域を脱していなかった。

信じるという行為もまた、課題の分離なのです。相手のことを信じること。これはあなたの課題です。しかし、あなたの期待や信頼に対して相手がどう動くかは、他者の課題なのです。そこの線引きをしないままに自分の希望を押しつけると、たちまちストーカー的な「介入」になってしまいます。
岸見一郎、古賀史健 『嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え』 ダイヤモンド社 2013年

恋愛のもつれで相手を殺害してしまうという事件について、今まで深く考えたことがなかった気がするんだけど、この映画を見て、突然に命が奪われてしまった小明のことを考えずにはいられなくなった。長く見てきたのはそのためなのか。しかも、小明の母親は事件のことを聞いて自殺したことが警察での話でわかる。小明は、確かに自分が異性から人気があることを知っていて、それを利用するところがあったけど、それは彼女なりの生きる術だったのかもしれない。持つものが少ない中で、利用できるものは利用するという強さを感じた。

それに比べると小四は幼い。裕福ではないけれど、家があって、家族がいて、ご飯が出てきて、学校へ行ける。近所の食料品店の小言がうるさい親父をなぐってやろうとしていたのに、その人が咳き込んで倒れてしまったら、持ってた石を落として助けてやるという優しい面があるのに、どうして本来の良さそのままで付き合っていけなかったのか。


争いに巻き込まれた小四を助けたことで仲良くなった転校生の小馬(譚至剛(タン・チーガン))との関係も複雑だった。小馬はお金持ちのお坊ちゃんで、堂々と異性交際してるとチクられる時代なのに女の子と遊ぶことにも慣れている。小明の母親が住みこみのお手伝いさんとして小馬の家で働き始めたことから、小馬が小明とも遊んでやろうと言って、小四と険悪になる。小四はそのとき昼間部に入学するための受験勉強に集中していて小明と距離を置いていた。小馬の言い分は、「女なんかで壊れる程度の男の友情じゃないだろう」というものだった。小四の事件を聞いた小馬は、「唯一の友だちだったのに」と泣き崩れた。小馬→小四→小明って矢印がすれ違ってうまくいかなかったのが悲しい。

小馬も小四の言い分を聞いていないですれ違ったし、小四も小明の言い分を聞き入れなかった。14歳は、自分のことで精一杯な年頃なのはわかるけど、どこかで事情が違っていたら結果も違っていたかもしれないと思うと悲しい。


すらっと背の高い小四や小馬と違って、まだ子どもの見た目な王茂(小猫王(リトル・プレスリー))(王啓讃(ワン・チーザン))や、飛機(柯宇綸(クー・ユールン))という幼なじみたちは、見た目と同じくまだ子どもの世界を生きていて、微笑ましかった。昔はそんなに変わらなかったのに、前の1年で小四だけ背が伸びて、大人びた見た目になったのかなとか考えていた。

小四を演じた張震が、元EXOのタオ(黄子韜)に見えてしかたなくて、ずっと脳内ではタオが演じていた。実際のタオより若いけど、ぼおっとしたところとか、実は芯が強いとことか、目力とかに面影を感じた。話の中で、上海から台湾に渡ってきた中国人であることや、青島(タオの出身地)から来たって言ってる人もいて、近い人種なのかな?ハニーを演じた林鴻銘は、重岡大毅(ジャニーズWEST)に見えてしかたなかった。海軍ファッションで決めててかっこよかった。小馬を演じた譚至剛は、ハーフっぽい見た目で最初からどこか違うなと感じさせるオーラがあって、役にあっていた。小明を演じた楊静恰の透明感はすごかった。目が小さいけどパーツがきれいで整った顔立ち。制服からのぞく細すぎない真っ白な脚が武器。




みんなこの蓋付きグラスでお茶飲んでて気になった。

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