Ready Player One / レディ・プレイヤー1 ~『男子劣化社会』を読んで〜 リアルをオンにするために必要なものとは


2045年、荒れ果てた世界で「考えるのを止めた」人々は、オアシスというVRの世界に生きていた。幼い頃に両親を亡くした17歳のウェイド(Tye Sheridan)は、叔母の家で暮らしているが、叔母の恋人から虐待され居場所がない。学校もないのか?毎日隠れ家へ行ってオアシスの世界に入り浸っていた。そこでは「誰もがなりたいものになれる」。ウェイドは銀髪の青年パーシヴァルと名乗り、髪型のセットに余念がない。彼はオアシスの生みの親であるジェームズ・ハリデー(Mark Rylance)を敬愛していて、彼の博物館に足繁く通っているハリデー・オタクだ。タイ・シェリダンは典型的なオタクっぽい風貌をしていないけど、酷い暮らしの中で風変わりな大人と出会い、成長する男の子っていうのは小さい頃にやっていたスタイルなので、今回のウェイドという役はそういう点では合っていたと思う。CGのアバターになっても演技は冴えていて、さすがの力を見せつけられた。

この作品を見る前に『男子劣化社会――ネットに繋がりっぱなしで繋がれない』を読んでいたのて、ゲームという安全地帯にひきこもる男の子のことを考えずにはいられなかった。女の子も中毒になったりひきこもったりというのはあるけれど、男の子の方が目立つ。その原因のひとつとして、父親不在が挙げられていた。

家に父親がいない少年や、建設的な男性ロールモデルが身近にいない少年は、のちにその欠如を埋めようとする。それを悪い仲間の中に見出す者もいれば、ドラッグやアルコールやゲームや、女性をモノとみなすことの中に見つける者もいる。
『男子劣化社会――ネットに繋がりっぱなしで繋がれない』


このことはウェイドにも当てはまるだろう。その点女の子が恵まれているといえるのは、母親が身近にいて甘えたり親密な話をしたりできるところだろう(その関係で大変なことになるって場合もあるけれど、それはちょっと今回は置いておく)。男の子だって母親に甘えたっていいんだけど、小学生でも高学年くらいになって母親にベタベタしているとからかわれることになるんじゃないかな?まして大学生や社会人になって母親と親密な関係だと「マザコン」って引かれる対象になる。

この本とほとんど似た内容を扱っていて、本を読むのが苦手な人には入りやすいのでおすすめなドキュメンタリー『The Mask You Live In / 男らしさという名の仮面』の中で興味深かったのが、「小学生までは男の子同士でもスキンシップしたり悩みを相談したりしているのが、中学生に上がった途端しなくなってしまう」という話。「男らしくあれ」というプレッシャーの中で、無口になって感情を殺すようになる。その結果、寂しさや心の痛みを感じてもそれを表現する言葉がなくなってしまうという。

幼い少年が「泣くのは女の子」だと言われると、自分の感情を表現するのは許されないと悟り、抑え込む。誰だって人から自分が何者であるかを言われ、自分の気持ちがいかに間違っているかを吹き込まれたら、感情を抑え込むか、心理的な経験を無理やり変えようとするだろう。これが人間関係にどう影響するかというと、そんな経験をもつ人は、自分が何者で何が欲しいのかがわからなくなる。すると、深みも本質も何もない会話をするようになる。二〇年後、この少年が大人になり、素敵な女性と出会い、恋に落ち、その女性に彼がよそよそしいので淋しいと言われたとき、彼は頭が混乱するのだ。彼女は彼にもっと心を開いて欲しがるのだが、彼には彼女が何を言っているのかがさっぱりわからない。なぜなら、彼はこれまでの人生で一度だって心を開いたことなどなかったからだ。
『男子劣化社会――ネットに繋がりっぱなしで繋がれない』

ドキュメンタリーのインタビューで、「酔っ払うことで解放されスキンシップができるようになるから飲みまくる」という話があった。映画でも見るような大学生のどんちゃん騒ぎの中で、男の子は酔っ払って勇気を得て女の子と寝る。この行為で男の子が認めて欲しいって思っている対象は仲間の男の子で、女の子はそのための道具でしかない。この悪循環は酷い。

オアシスの世界においてスキンシップは限られた人(高性能のスーツを買えることができる人)しか感じられない。人のぬくもりが高級品。


もしあなたが若い男性で、もっと生きがいのある、満足のいく生活を望んでいるなら、自分でそれを引き起こさねばならない。ゲームにうつつを抜かし、傍観者になって待っていても、何も起きてはくれない。外に出て、世の中に参加しなければならない。携帯電話やラップトップに視線を落とし続けている間は、チャンスが訪れても見逃してしまうだろう。他の人々とつながる機会がないとか、テクノロジーを通してしか成功するチャンスはない、などという間違った思い込むすら抱き始めるかもしれない。だから、あなたのデジタル・アイデンティティをオフにして、あなた自身のスイッチをオンにしなさい。自分を、友達になっていっしょにビジネスをしたくなるような男に変えなさい。そんな男になるための段階的な計画を立てなさい。
『男子劣化社会――ネットに繋がりっぱなしで繋がれない』

男の子には「良いロールモデルやメンター」の存在が重要になってくるという。ドキュメンタリーでは、コーチや教師がその役割を引き受けていけるようになるといいということで、実際に今、活動している人たちを紹介していた。特にスポーツの世界では「男らしく」とか「女々しい」みたいな言い方が選手を鼓舞するために使われることが多く、そうじゃなくて子どもに近い存在の大人としてうまく機能することが理想だとは思う。だけどそのポジションにいる一人ひとりが今からすぐそうなれるかといったら、まだまだ課題はたくさんですぐには難しいよね。

ウェイドにとっては、彼のアイドルであるハリデーが「ロールモデル」だったのだろう。「彼ならどう考える?」って自分に彼を召喚して物事を決める。この方法はやりやすいけど、そのロールモデルの良くない部分も真似てしまうというデメリットがある。ハリデーは自分の失敗をクリアするようにゲームの課題として与えていた。これによってウェイドは学びの機会を得ることができた。

もうひとり、側で見守っていてくれたキュレーターの存在も大きかったと思う。子どもに答えを教えて正しい道に導くことは作業としては簡単で、自由を与えてそれを見守るということの方が実は難しい。藤井聡太と師匠の関係も、「家が近かった」という理由で選らんだだけじゃないかって言ってたけど、結果、口出しせずに見守ってくれる人だったのがよかったと思っていたところ。

「デジタル・アイデンティティをオフにして、自分自身のスイッチをオンにする」ことのように、自分でもやらなきゃいけないことだってわかっていても、なかなか自分のためにできないことってある。そんな時に唱えたいのが『RuPaul's Drag Race / ル・ポールのドラァグレース』の名台詞「If you can't love yourself, how in the hell are you gonna love somebody else? 」(自分自身を愛せなくて、どうして誰かを愛せるの?)
ル・ポールはすでにロールモデルやメンターとして良いお手本である存在。番組についてはこのブログが詳しい。
ドラァグクィーンがNext America's Drag Super Starを競うリアリティー番組・・・RuPaul(ル・ポール)の歴史とドラァグクィーンの楽しみ方~「ル・ポールのドラァグレース/RuPaul's Drag Race」~ | めのおかしブログ


愛してあげるのはアバターの自分だけではなく、リアルの自分もであってほしいということ。アバターにお金をかけてかっこいい髪形にするように、自分自身にもちょっとお金をかけてみる。だけど自分のセンスに自信がないし……っていうときの強い味方が、Netflixの『Queer Eye / クィア・アイ』だ。

第2話はまさに「安全地帯から出る」ことがテーマになっていた。人に触られるのが苦手で腕を組んで距離を置くジェスチャーをしている彼に、ファブ5は初対面からどんどんハグをする。彼もしだいにスキンシップに慣れ、最後にはグループハグ!ってなるところがいい。ファブ5が彼に伝えたのは「自分に自信をもつことは恥じることじゃない」ということ。自分を認めることから変身が始まる。「変わるのが嫌だった」という彼をファブ5は変身の過程で常に励まし続ける。『クィア・アイ』のいいところのひとつは、その変身が対象者の生活圏内から大きく外れていないところ。自分で洋服を選べるように、肌の手入れをできるように、キッチンに立てるように。少しだけ頑張ってみるための知識を与えて後押しをしてくれる。


もちろん一緒に戦う仲間の存在も大事。アバター効果でリアルじゃ絡まないような友だちも作れていたところがよくて、ウェイドにファッションのアドバイスをしていたのが実は女の子だったっていうのがおもしろい。


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