Netflixオリジナル作品は青春映画ジャンルを救うのか? ~キラキラ映画について考える(3)

by - 1/31/2019


最近の青春映画ってキラキラしているよなと思いだしてから青春映画をまとめてみたら、Netflixオリジナル映画が増えていることに気付いた。そこで「キラキラ映画について考える」シリーズとして、今度はNetflixオリジナル作品の青春映画について調べていきたい。

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青春映画に占めるNetflixオリジナル映画の割合

まずは以下の情報をもとに、青春映画に占めるNetflixオリジナル映画の割合をだしてみた。
Wikipedia | List of teen films
Wikipedia | Netflixオリジナル映画の一覧


2018年3月6、7日に開催された「Netflix Lab Days」で、Netflix創業者兼CEOのリード・ヘイスティングス氏が述べているように、Netflixオリジナル作品を充実させるという同社の戦略の結果が青春映画作品数にも影響を与えているようだ。

ヘイスティングス:私たちは、契約者をどう楽しませるかを常に考えている。今年、契約者からは約150億ドルを得る。このことをとてもうれしく思う。そのお金を預かり、素晴らしいコンテンツに投資するのは私たちの責任だ。私たちは絶えず顧客のために、素晴らしいコンテンツ制作者になろうとしている。

Netflixは2018年度に、コンテンツ制作に約80億ドルを投資する、と公言している。さらに20億ドルを、そのコンテンツマーケティングに使う。有料契約者から得られる収益の過半がこれに消える。利益は当然きわめて薄いものになるが、同社としてはこれが「適切な投資」であり、いまこそが投資のタイミングだと考えている、ということになる。
Netflixが目指す「真のグローバルコンテンツ」。ライバルから「学ばない」 - AV Watch 

ガーディアンの記事では、Netflixが映画館離れの激しい10代後半~20代前半の若い視聴者をターゲットにしていると述べられている。そしてそれが青春映画を復活させることにつながっているという。

While it’s true that the company was reported to be spending $8bn on content in 2018 alone, it’s clear that a considerable chunk of that programming is being geared towards a teenage audience. According to the Atlantic, teenagers and young adults are “abandoning movies faster than any other group”, and Netflix is trying to pick up the slack.

......

As the sheer range of movies and shows offered by different streaming services changes, Netflix has proven itself ahead of the curve in appealing to a teenage audience, and essentially resurrecting the teen movie.
Teenage stream: how Netflix resurrected the high school movie | The Guardian

Netflixオリジナルの青春映画の特徴

ガーディアンの記事で挙げられているNetflixオリジナルの青春映画の特徴をまとめると、次の4つのようになる。

1. 多様な人種のキャスト

多様な人種のキャストというのは、現在ほとんどの作品で注意されているのでNetflixに限った特徴とはいえないけれど、『To All the Boys I've Loved Before / 好きだった君へのラブレター』では、アジア系アメリカ人作家による原作に忠実にアジア系アメリカ人を主人公に起用している。

2. セクシュアリティに寛容
3. PG-13指定の基準よりも激しい描写

同性愛の高校生を扱う『Alex Strangelove / アレックス・ストレンジラブ』は、同性愛が受け入れられるかどうかは悩みの中心はでなく、全体的に軽いタッチで描かれたロマンティック・コメディになっていて、同じく同性愛を扱った『Love, Simon / Love, サイモン 17歳の告白』よりも性的なことがオープンに描かれている。また、『Dude / エンド・オブ・ハイスクール』では4人の女子高生が飲んだり吸ったりセックスしたりと、女の子が悪く振る舞うことも描いている。

4. インターネット時代を生きる若者に合わせた描写

現代の若者に合わせた描写ということではいえば、最近ではスマホを使ったコミュニケーションは必須になっているので特別とはいえないけれど、タイトルにタグが使われている『#REALITYHIGH / リアリティ・ハイ #REALITYHIGH』、なりすましを扱う『Sierra Burgess Is a Loser / シエラ・バージェスはルーザー』などインターネット時代の光と陰を積極的に描いている。


今回このまとめを行うにあたって観たNetflixオリジナル作品は以下のとおり。さすがに全部は観切れなかったけれど、ガーディアンの記事で指摘されていた以外に感じた特徴を挙げていく。
XOXO (2016), iBoy (2017), Tramps / 浮き草たち (2017), Death Note / デスノート (2017), #REALITYHIGH / リアリティ・ハイ #REALITYHIGH (2017), Dude / エンド・オブ・ハイスクール (2018), The Kissing Booth / キスから始まるものがたり (2018), Alex Strangelove / アレックス・ストレンジラブ (2018), To All the Boys I've Loved Before / 好きだった君へのラブレター (2018), Sierra Burgess Is a Loser / シエラ・バージェスはルーザー (2018)

主人公の女の子の親友は幼なじみの男の子

最初に違和感を感じたところが、主人公の女の子の親友が異性であること。『#REALITYHIGH / リアリティ・ハイ #REALITYHIGH』『The Kissing Booth / キスから始まるものがたり』『Sierra Burgess Is a Loser / シエラ・バージェスはルーザー』『To All the Boys I've Loved Before / 好きだった君へのラブレター』の例がある。これら作品の共通点はどれも主人公の女の子が冴えないタイプなところ。最近の映画で似たような感じを思い出してみると、『The Edge of Seventeen / スウィート17モンスター』や『Lady Bird / レディ・バード』の主人公の親友は同性。


偶然なのか戦略なのかわからないけど、気になるところ。私は「幼なじみの男の子」ということで思い出すのが『Pretty in Pink / プリティ・イン・ピンク』のダッキーなんだけど、Netflixオリジナル作品のこのタイプのキャラクターでそこまで愛しい子はいないのが寂しい。どれもちょっともったいないんだよね。


キャスティング

青春映画ジャンルは若い俳優が多く出るので被ることは珍しくないけど、Netflixって括るとよくみるなって人が出てくる。代表格はノア・センティネオ。Netflixオリジナルの胸キュン男子と化している。


他にもドラマシリーズの出演も含めると、結構よくみる人が増えてくる。
ダニエル・ドヘニー、グリフィン・グラック、ディラン・ミネット、デロン・ホールトン、シャノン・パーサー、ネスタ・クーパー、ベラ・ソーン、キース・パワーズ、ニック・ドダニ、グラハム・フィリップス

「若手を育て、離さない」と、指摘している記事があった。それで80年代のブラット・パックが引き合いに出されていたのがおもしろい。

Netflix has brilliantly cultivated their own crop of talented young actors — and they’re not letting them go.
Netflix Is Creating Their Very Own Brat Pack | Decider

これはまだそこまで例が多くないけど、80年代の青春映画で知られた俳優が親役に起用されていることも気になっていた。代表格はモリー・リングウォルドで、他にもリー・トンプソン、アラン・ラック、ウィリアム・ラグズデールなど。

この記事で『Sierra Burgess Is a Loser / シエラ・バージェスはルーザー』『To All the Boys I've Loved Before / 好きだった君へのラブレター』のキャスティング担当者は、青春映画で親や先生などの周辺キャストを決めることの困難さと金銭的制約がない自由の偉大さについて語っているよう。自由度のあるキャスティングがNetflixの強みなのかもしれないと思った。

When you’re doing a teen movie, the pressure falls on who you’re going to cast around them, like the parents or the teachers or the comedy roles, because there’s very few actors in that age range that will do that. Everyone always wants the three people that mean something financially, but the beauty and the ease of it is that it’s very rare that they’re available or want to do it. So I’ve got the freedom to just find great people and there’s so much great talent out there.
Let’s Hear It For The Parents of Netflix’s Teen Rom-Coms | Decider

80年代の青春映画に憧れた層が製作側になっていることも考えられる。青春映画で『The Breakfast Club / ブレックファスト・クラブ』が触れられることはあっても、Netflixの映画では『Sixteen Candles / すてきな片想い』なところもおもしろい。しかもただジェイクの見た目がいいことが褒められている。


Netflixオリジナル作品は青春映画ジャンルを救うのか?

Netflixオリジナル作品はガーディアンの記事で指摘されていたように、質の面ではまだ抜き出たものがないかもしれないけれど、量の面では圧倒的に勢いがある。またヘイスティングス氏が「世界中でコンテンツを制作している」というように、アメリカ以外の青春映画に手が届きやすくなるというメリットもある。今回は触れなかった監督についても、長編1作目や2作目の起用が多いということで、俳優だけでなく新しい人材発掘の側面を担うかもしれない。ということで、Netflixオリジナル作品が青春映画を量産してくれることがこのジャンルを救うことになる可能性はあると思う。


最後に、このニューヨーク・タイムズの記事ではおとぎ話のような映画を「10代視聴者を対象としたライフスタイル・ポルノ」と表現している。もしかしたらこの表現を「キラキラ映画」につなげることができるのかもしれない。主人公が嫌な目にあったりもするんだけど、全体的にキラキラしていて観終わった後も気持ちがいい感じ。

The affluence of its characters bolsters the movie’s fairy-tale feel while functioning as lifestyle porn for its teenage target audience.
In 3 Netflix Films, Female Friends Chasing After Good Times | The New York Times

だんだん洋画におけるキラキラ映画がどんなものかわかってきた気がする。『Midnight Sun / ミッドナイト・サン ~タイヨウのうた~』みたいに邦画をリメイクするとしたらとか、その逆とか考えていると楽しい。

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