Blockers / ブロッカーズ ~男の願望じゃない女の子の初体験コメディ
『American Pie / アメリカン・パイ』(1999)や『Superbad / スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007)のような、R指定のおバカ童貞卒業コメディと分類されるこの映画は、女の子が処女を卒業ってところで新しい。この映画の女の子たちがこれまでの男の子と違うのは、最初から相手が見つかっているところ。だから男の子たちが相手とうまくいくためにどうにかこうにか奮闘する様子をコメディにしていたパターンと違って、親が何とか娘の初体験を阻止しようとするところをコメディにしている。こういう下品なコメディに関しては好みが分かれるところだけど、女の子の初体験を扱っている映画としては、女の子たちが自分の身体について自分で探索して答えを出していく描き方が現代的で、それぞれの女の子が大切にされていてよかった。
登場する3人それぞれに初体験と親子関係の物語があって、ブロンド白人のジュリー(Kathryn Newton)と過保護なシングルマザー(Leslie Mann)の物語が1番王道っぽい。完璧な初体験はプロムの夜じゃないとっていう理想が高いジュリー。彼氏と一緒の大学へ行きたいっていうのも、自立したいからで、親の過干渉に負けていない強い子。ジュリーの母親にとって娘の処女喪失が自分の娘を失うことのような大きな意味を持っていて、子離れができないということを重ね合わせている。自分が苦労したことを子どもにさせたくないという気持ちはよくわかる。けどそうやって締め付けることで、子どもの成長の機会を奪っているのではないかということに親自身が気付くという親子の成長物語になっていた。
そういえば、ジュリーの部屋に『Sixteen Candles / すてきな片想い』のポスターが貼ってあって、この傾向はNetflix内だけじゃないんだね。彼氏(Graham Phillips)はちょっとジェイクっぽい、ぽやっとしたキャラクターだったし。ジュリーが夢見ていたようなホテルのベッドのデコレーションに対して、「これは君の友だちがやってくれたんだ」って告白するところとか、素直ないい子で、ジュリーが初体験で傷つくことはない。
アジア系ミックスのケイラ(Geraldine Viswanathan)は、運動ばっかりやってきてそういうことしてこなかったけど、いい機会だしジュリーと一緒に自分も卒業しようという軽いノリでこの計画に参加する。しかしとにかく酔っ払ってしまいたいっていうところから、セックスへの恐怖心が垣間見えていた。待ってくれた男の子(Miles Robbins)のおかげもあって、大切にしなくてもいいと思っていたけれど、大切にしてもいいという風に考え方が変わった。酔っ払って意識なくしたところをレイプという『13 Reasons Why / 13の理由』みたいなことが起こっても不思議じゃない状況で、この映画の女の子は理解ある男の子によって大切に扱われる。ケイラの家の場合は、母親の考え方は現代的で同性の娘に関して大きな心で見ているところがあるんだけど、父親(John Cena)は一緒に運動する子どもとして見ていたのが急に女性であることを意識させられてパニックになっている状況。父親がちょっと行き過ぎても、この母親なら大丈夫かなと思う。
眼鏡ゴスっ子のサム(Gideon Adlon)は、同級生の女の子(Ramona Young)に想いがあるけど、まだ確信が持てなくて、それよりも共有体験によって親友の絆を深めようと、友だちの男の子(Jimmy Bellinger)とやることにする。サムは離婚した母親と新しい母親の相手と暮らしていて、父親(Ike Barinholtz)とは疎遠。父親としては離婚の原因がどっちにあったというのは置いておいても、娘の成長をずっと見守ることができなかったことを後悔している。そして経験上、サムが同性愛者だということを感づいていて、そのサポートをしたいと思っている。だから3人の親の中で1人だけこの阻止計画には別観点から参加している。サムが同性愛のことを打ち明けたときも、1番に話してくれたことに喜ぶ父親。そしてサムは親友に応援されて、意中の子に告白をする。この映画では誰も同性愛のことをおかしいと言わないし、実験台にされた男の子も気にしていない。
ロフトのバレンタイン広告に戸惑いの声 「女は陰湿という考えが透けて見える」| ハフポスト
最近日本では上のようなことが話題になっていて、これに対してのいくつかの意見を読んで、ある男性側の意見は途中から自分語りになっていたので辛くなった……。「女ってこうでしょ」っていう型をはめられるのが嫌だっていうことは、そんなに理解しがたいことじゃないと思う。それは女ということだけに限らず。型は使うと楽だけどいいことばっかりじゃないから難しいね。
“I did a lot of work on the script, along with a lot of other people who worked on it, but what I felt like I brought to the table that wasn’t in the script that I read was the heart and the emotion, the real specificity to the daughters,”
‘Blockers’: How Kay Cannon Made a Raunchy, R-Rated Sex-Positive Comedy for Teenage Girls | IndieWire
この映画は最初に挙げた『Superbad / スーパーバッド 童貞ウォーズ』のエヴァン・ゴールドバーグとセス・ローゲンのプロデューサー・コンビが手がけ、脚本は男兄弟によるものだけど、女性監督(『Pitch Perfect / ピッチ・パーフェクト』シリーズや『30 Rock / サーティー・ロック』などの脚本で知られるKay Cannon)が起用されたことによって、脚本にも修正が加えられたそうだ。IndieWireによると、3人の親のうちのひとりが母親なのも、3人の女の子のうちのひとりが性的指向で迷っていることも彼女が追加したことらしい!こんな女の子であってほしいとか、逆にこんな女の子は嫌だみたいな男の欲望(昔ながらの)を笑い飛ばすようなタフさは彼女の仕事のおかげだろう。そしてその立ち位置は、この映画で最も現代的な考えのケイラの母親に近い。『Bridesmaids / ブライズメイズ』(2011)にはじまり、『Bad Moms / バッド・ママ』(2016)、『Girls Trip』(2017)などR指定のコメディにも女性が主役となるものが増えてきている。『Blockers / ブロッカーズ』は10代の女の子が主役なのに対して母の視点がある分、守られているところも多い。
“I’ve seen some criticisms that the movie is a little too preachy and never stops reminding us [about these issues], but at the same time, I feel like if it didn’t exist, people would be like, ‘Why are they doing this? This is nuts, it’s 2018,'”
‘Blockers’: How Kay Cannon Made a Raunchy, R-Rated Sex-Positive Comedy for Teenage Girls | IndieWire
キャノン監督がいっているように、その分お説教臭くなったとしても、このテーマ(おバカ童貞卒業コメディ)をこの時代に扱うことの意義があるからいい。コメディでは笑いたいだけって観客もいるかもしれないけれど、このジャンルにお説教をぶっこむというのが、同年代の女の子だけじゃなく、男の子や大人にとっても考えさせられる機会になるから。
NEWTON: I remember thinking, “Is it going too far? Is the joke too raunchy?” And then I was like, actually this is how me and my best friends talk. And it isn’t too far.
……
VISWANATHAN: No, I’m always talking about dicks looking like plungers. All the time. [everyone laughs]
……
How the leads of R-rated comedy Blockers reframed the high school virginity narrative | Interview Magazine
インタビュー誌での監督による3人の主役たちへのインタビューを読むと、監督だけじゃなく演じた女優たちも、「女の子ってこうでしょ」っていう型に対して女の子だって下ネタジョーク話すしっていうリアルさがわかる。
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